漠然とした不安とリーダーの不在明確な将来への不安感を抱える中高年層とは別に、いま10代から30代に至る若年層のあいだにも漠然とした不安感が浮遊している。
いったい私たちは何に対して不安なのだろうか。
単に経済不況と終身雇用崩壊による失業者の増加を憂いでいるのか、成熟期に入り経済に活気が失われ、そのなかで高齢社会に突入する社会への閉塞感から来るものなのか。
あるいは、山積する問題に解決策を見出すことのできない大人たちと将来の自分が重なって見えるのだろうか。
それとも秀でた才能もスキルもない自分が、このような社会でサバイバルすることができるのだろうかという嘆きなのか。
おそらく私たちを取りまく社会環境のどれもが複雑に絡み合いながら、私たちを不安にさせているのだろう。
そしてどれもが短期間で消えてなくなる問題でない分、ますますやっかいなのだ。
しかし、もっとも重要な原因は、これから私たちがどう進んでいけばよいのか、その具体的なビジョンを提示してくれる人間(リーダー)の不在なのではないだろうか。
ここに若年層の雇用不安を統計上から分析・解説した一冊の本がある。
著者である、K氏は本書の中でこう記している。
若いうちにやりがいのある仕事に出会い、それに取り組み続けることで、仕事に誇りと責任を感じることができ、それが同時に社会全体の活気を生んでいく。
しかし、実際はそれと反対の方向に社会は進んでいる。
若年の多くが働く意欲を失い、能力や経験を身につけていない。
それは将来とりかえしのつかない多大な社会的コストを生むことになる。こうした要因になっているのは、やりがいのある仕事、誇りや満足を感じることができる仕事に出会えるチャンスが、中高年層によって奪われているからであると著者は警鐘している。
それは、リストラのむずかしさを反映した新規採用の抑制が、業務の末端である雑務を若い社員に引き受けさせ、仕事を終わらせなくする。
それが結局、より高い技能や知識の獲得への意欲を失わせ、会社内のステップアップを期待できなくさせているのだと分析している。
本書では、データを用いて現在の雇用不安の要因を冷静に分析しながら、これからの時代をどう切り開いていけばよいか、わかりやすく解説している。
そして自分で自分のボスになることを著者は強く提言する。
そのなかで、女性にとってはとても心強くなる一節がある。
現代の社会には言いようのない閉塞感や停滞感が横たわっている。
そんな雰囲気を振り払うのは、会社のなかで本当の実力を発揮できないでいる女性が、男性中心の雇用社会と決別し、大挙してみずから独立して会社を起こすときである。
女性が独立を通じて、成功を手にするときである。
そのときの成功は、収入でもいいし、仕事の誇り、やりがい、働きがいでもいい。
日本社会が本当の男女共同参画に向けて大きく動き出すのは、経営者であれ、自由業であれ、商人・職人であれ、自分で自分の仕事上のボスになることが、女性にとって現実的な選択肢となったときである。またフリーターである若者に向けて、つぎのように述べている。
軽やかな新しいタイプの自営業がフリーターのなかから大量に出現してくること。
それが経済の新しい局面をきっと切り開いていく。
フリーター問題で危倶されている若年の能力開発についても、正社員になれないならば自分でやるしかない。
若者本人に自分で自分のボスになりたいという意識が芽生えて、はじめて主体的な能力開発に取り組む。
正社員が魅力的にみえないのも、それが袋小路にみえるからだ。
それが将来的にはボスになるためのステップとしてならば、正社員になることの見方も、きっと変わってくる。
若年雇用問題の将来は、若者が自分で自分のボスになりたいと思うかどうかにかかっている。すでに起業を志す人には、孔子の論語を現代にアレンジして、キャリアプランニングのヒントを与えてくれる。
孔子はかつて、こう言った。
吾十有五にして学に志し(志学)、三十にして立ち(而立)、四十にして惑わず(不惑)、五十にして天命を知る(知命)六十にして耳順(耳順)、七十にして心の欲する所に従いて矩をこえず(従心)論語より現代の日本の独立開業についていえば、立つべきは三十ではなく、むしろ四十だ。
この論語の言葉は、現代ではそれぞれ十歳くわえるほうが当てはまるように思う。群れているのが安心だった社会は崩壊し、これからますます就社という概念は姿を消していく。
個人としての能力が問われる時代では、先に独立開業を前提にしたうえで、どの企業なら将来のビジネスにつながり、キャリアを積むことができるのかを考えて、一時就職する、そんな就業スタイルが増えていくだろう。
企業すべてがなくなるわけではないから、企業でそのまま就業していく人もいるはずだ。
その場合、専門性をもつスペシャリストが生き残っていく社会になることは間違いない。
すでにそうなりつつあるのが現状だろう。
最近よく使われる自己責任という言葉があるが、それには結果論の意味合いが強いのではないだろうか。
それよりむしろ自分の能力を信じて、自分に頼って生きていくことつまりは自己本願」的な生き方をすることこそが、将来を前向きにとらえることができる基幹となるのだろう。
自分が自分のボスになることが将来を前向きにとらえる手段であるならば、具体的にどのようなボス(リーダー)になれば、ビジネスを成立(もしくは安定)していけるのであろうか。
未曾有の社会不安に陥っている日本にとっては、そのリーダー像の不在が命題となっている。
では、すでに社会的な成熟期を経験している欧米に目を向けてみるのはどうだろう。
とりわけ、常に日本のビジネスモデルであったアメリカには参考となるようなリーダー像が数多く存在している。
アメリカの人材開発学の識者はその集大成として、次世代の理想的なリーダー像をこう定義している。
ビジョンをもち、システム思考ができる確固とした能力があり、揺るぎない倫理観をもって人々に働きかけ、奉仕できる存在であり、テクノロジーの可能性を理解し、グローバルな視野をもっている人であること。
これは決して大企業のトップにのみあてはまる要素ではないだろう。
明確なビジョンがあれば、自らも迷わずに先に進め、他者からの賛同も得やすい。
システム思考できる能力は、問題が発生したときに、一つの観点だけでなく、同時にシステム全体から考えることができるということである。
これは問題解決のうえで非常に重要となる。
科学技術の可能性と限界を把握し、揺るぎない倫理観と広い視野をもちながら、常に下僕なるリーダーであれば、ビジネスは成立するだろうし、おのずと人はついてくるだろう。
すべてはビジネスの大小に関係なく、万事に対応するものなのだ。
こうしたビジネスセンスを構築するにはどうしたらよいのだろうか。
そこで本書ではICC国際交流委員会が主催するプログラムを中心に欧米でのさまざまなビジネス留学を提案する。
もちろん、日本でも一部の大学で上記のようなビジネスパーソンを育成する場が提供されているが、その絶対数はまだ圧倒的に不足している。
その点からも、実社会から得た実績や多大な情報量、ケーススタディと優秀な教授陣が揃っている欧米の教育機関に学ぶ意義は大きいといえる。
また個人としての自分が何かをはっきり具体化できていない人にとっては、個を重んじる文化圏に自分を投げ込むことが、否がおうでも自分とは何かを浮き彫りにしてくれる、非常に良いきっかけとなるはずだ。
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